誰でもわかる、できる口腔ケア、嚥下リハ

在宅でできる口腔ケア

口腔ケア前の準備、確認

  • 体調の確認と声かけ、必要物品の準備
  • バイタルサイン
  • 体位の確認と設定
    体位嚥下障害がある場合、最も安全な体位。本人がリラックスできるような体位を選択。
    体幹固定クッションやタオルなどを利用して、できるだけ体との接触面積を大きくし安定を図る。
    頭頚部の位置頸部が後屈していないか、可及的に前屈が誤嚥のリスクを下げる。片麻痺の場合健側を下にする。
  • リラクゼーション
    口腔のみでなく全身的なマッサージやリラクゼーションを施行し、緊張を緩和する。開口が難しい方などは事前にリラクゼーション、マッサージなどを行うことにより筋緊張がほぐれる場合もあります。アロマテラピーや音楽など患者さんのリラックスできる環境設定も効果があるときもあります。唾液腺のマッサージなどで口腔内の湿潤状態を作ることができます。
  • 頸部聴診
  • 保湿
    口腔ケア前の
    保湿剤塗布
    特に口腔乾燥が著明で痂皮が固着している場合は口腔ケアを行う10分程度前に保湿剤を塗布しておくことで痂皮が除去が容易になる。口腔乾燥などで接触により出血したり、痂皮が多く除去が困難な場合は、事前の保湿が効果的です。
    口腔ケア後の
    保湿剤塗布
    口腔内の保湿感を維持させるのが目的である。嚥下機能が低下した患者の場合には、次回の口腔ケア時に前回の口腔ケア後に塗布した保湿剤の除去が必要になる。

口腔ケアの実施

口腔ケア

視野の確保 開口器やアングルワイダーの使用や片方の手を頬部の展開などに用いる。
開口の維持 開口維持が難しい場合、開口器や開口棒、歯ブラシにガーゼを巻くなど工夫する。K-pointの刺激や口腔周囲のマッサージなども有効なこともある。
アセスメント 口腔内を観察し、う蝕や腫れ、カンジダなどの問題がないかチェックする。特に口蓋や奥舌に汚れが残存していないか確認する。
用具の
取り扱いの基本
含嗽剤入りの水分などにつけてからよく水分をきって誤嚥させないように行う。保管時はよく洗浄し柄の部分を下にする。
動きの基本 必ず奥から手前に、小帯を避けて動かす。力を入れすぎない。順番を決めてケアしていない部分がないようにする。
器具使用の
順番
くるリーナやガーゼ、スポンジブラシなど大まかな汚れを取る器具から開始。歯ブラシ、タフトブラシ、歯間ブラシ、フロスと小さな器具で細かいところをケアする。汚れを回収するためにスポンジブラシなど大きめの器具を用いることもある。
歯ブラシに
よるケア
ペングリップで歯ブラシを持つ。歯に垂直に毛先を軽く当て振動させながら歯を一本一本丁寧に清掃する。歯周ポケットには歯ブラシを斜め45度に毛先を入れるようにして行う。
歯間ブラシや
フロスによるケア
単独歯や歯の間が広い場合はタフトブラシや歯間ブラシを使用。歯の間が狭いところはフロスを用いる。しかし、やりすぎると歯肉を傷つける恐れがある。歯間ブラシは適度なサイズを選択することが重要で、歯肉に過度な圧力をかけず使用。歯間部に挿入し角度を変化させながら数回動かす。フロスは歯に沿わせるようにして軽く、数回程度引き上げる。充填物や詰め物が引っかかる時は無理に引っ張らず、横に引き抜く。

吸引、含嗽

ブラッシング等の施行により口腔内に細菌が散乱した状態にあるため、含嗽ができる人は十分に行ってもらう。できない人や嚥下障害がある場合は丁寧に汚れを拭き取ったり吸引により汚れを残さないようにする。口腔ケア時に吸引器を用いながら行ったり、吸引器付きの器具、ガーゼなどで水分の垂れ込みを防止する。咳嗽可能な場合は頻繁に咳嗽を行ってもらうことも重要。

義歯の清掃

流水下にて義歯ブラシ等を用いて滑りがなくなるまで清掃する。義歯は夜間洗浄後、水分につけて保管することが望ましい。ただし、咬合の関係で夜間用の義歯を装着しておく必要がある場合もある。義歯洗浄剤の使用は部分入れ歯や総義歯など義歯によって種類を選択する。全部床義歯用の洗浄剤を部分義歯に使用すると変色することもある。

口腔ケアの時間や程度

特に口腔ケアにかける時間に規定はない。綺麗になるまで行うことが重要。患者さんによっては体力的な問題から、完全にきれいにする前に疲労が見える場合もある。体調や体力、1日の活動の中のケアの時間を考慮しながら行う。

口腔ケア後の確認、評価、記録、報告、連絡

  • ケア後のバイタルサイン、頸部聴診など
  • 説明、関係職種への連絡

在宅でできる嚥下・呼吸リハ

嚥下体操

食事の前に口を動かしておくことで食べ易く、飲み込み易くします。気管に誤って食べ物が入ってしまう誤嚥の予防にもなります。

首のリラクセーション(各10回ゆっくり行ってください)

突っ張りを感じるまでゆっくり動かします。
①前後に ②左右に ③回します ④肩を持ち上げすとんと落とす。

口唇の運動(各10回程度繰り返してください)

①「う」すぼめる・「い」引く ②大きく開ける・しっかり閉じる ③頬を膨らます・へこます。

舌の運動(各10回程度繰り返してください)

①出す・引っ込める  ②上・下  ③左・右

発声練習(各10回程度繰り返してください)

①パパパ ②タタタ ③カカカ

空嚥下

唾をゴクンと飲んでください。うまく行えない場合は口腔内を少し湿らし、行ってみてください。
2~3回ゴクンを行ってみてください。

氷を用いた嚥下訓練

口に含んだ氷の冷刺激によって嚥下反射を誘発する.通称,氷なめ訓練と呼ばれる.

小さめの氷を口に含み,溶けてきた水を飲み込んでもらう.氷の口腔内保持が困難な患者では,氷をガーゼで包んでデンタルフロスで縛って保持するなど,氷が咽頭に落ち込まないよう注意する。

アイスマッサージ

凍らせた綿棒に水をつけ,前口蓋弓のみならず,舌根部や咽頭後壁の粘膜面を軽くなぜたり,押したりして,マッサージ効果により嚥下反射を誘発する方法。

頭部挙上訓練(シャキア・エクササイズ)

舌骨上筋群など喉頭挙上に関わる筋の筋力強化を行い,喉頭の前上方運動を改善して食道入口部の開大を図る.食道入口部の食塊通過を促進し,咽頭残留(特に下咽頭残留)を少なくする効果がある。

1)挙上位の保持(等尺性運動) 仰臥位で肩を床につけたまま,頭だけをつま先が見えるまでできるだけ高く上げる。
「1分間挙上位を保持した後,1 分間休む」。これを3回繰り返す.
2)反復挙上運動同じく仰臥位で頭部の上げ下げ(up and down)を30 回連続して繰り返す。

1)2)を1日3回,6週間続ける.なお,喉頭挙上筋群を徒手的に鍛える方法も有用。

ブローイング訓練

吹く動作により鼻咽腔が反射的に閉鎖されることを利用して,鼻咽腔閉鎖に関わる神経・筋群の機能を改善させる。気管内圧を上昇させ,気道の虚脱を防ぐ効果や呼気持続時間を延長させる効果などが期待できる。

コップに水を入れ,ストローでぶくぶくと泡が立つように吹く.うまく泡立たないときには指で鼻をふさいで介助し,徐々に介助を減らしていくとよい。さらに,ストローの太さや長さを変える,コップの水の粘度を変えるなどによって,難易度を調整する。ストローでコップの水を吹くかわりに,ろうそくの火や細く裂いたティッシュペーパーやおもちゃを吹いてもよい。

口すぼめ呼吸

吸気は鼻から行い、呼気はくちをすぼめて、ろうそくの火を消すように「フーッ」とゆっくり息をはく。
吸気と呼気の比は、1:2くらいで行う。

腹式呼吸
膝をたてて仰臥位にて、口すぼめ呼吸でゆっくりと息をはきながら、同時に腹部がしぼうむようにする。また、吸気は鼻からゆっくり吸いながら、腹部が持ち上がるように行う。腹部に手をあてて行う方法もある。

プッシング・プリング訓練

押したり持ち上げたりといった上肢に力を入れる運動により,反射的に息こらえが起こることを利用して,軟口蓋の挙上,声帯の内転を改善させることを目的とした訓練。

  1. 壁や机を押す,肩からこぶしを振り下ろす等のプッシング動作を練習。
  2. 動作とともに強い発声をする。
  3. ある程度,響く声が出るようになったら,徐々に動作を減らしていく。

プッシング動作のかわりに,椅子の底面や肘掛けを引っ張ったり,両手を前でつないで外方へ引っ張るというプリング動作でもよい。上肢の運動麻痺や認知障害の状態によって使いわける。また,声を出さずに強い息止めだけを行う方法もある。

ハッフィング

気道内分泌物の移動を目的として、声門を開いたまま強制的に呼出を行うこと

中程度の吸気の後、軽く口を開いて、ゆっくり長く「は—–っ」と 胸郭 と 腹筋 を使って息を絞り出す。その後、深く息を吸い込んだ後に、可能な限り早く短く 「ハッ、ハッ、八ッ」と 1-2回息を吐き出す

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会による訓練法のまとめ(改訂2010)より引用