便通異常症診療ガイドライン2023—慢性便秘症(成人)
1.「便秘症の診断基準」
本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状態・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な努責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排泄困難を認める状態
Rome IV診断基準:
以下の6項目のうち、2項目以上を満たす
排便中核症状:
・C1(便形状):排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便
(Bristol便形状スケールタイプ1か2)
・C2(排便頻度):排便の4分の1超で強くいきむ必要がある(怒責)
排便周辺症状:
・P1(努責):排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある
・P2(残便感):排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる
・P3(直腸肛門の閉塞感・困難感):排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある
・P4(用手的介助):排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助である(摘便、会陰部圧迫など)

ブリストル便形状スケール:国⽴がん研究センターがん情報サービスHPより引用
2.「慢性」の基準
6か月以上前から症状があり、最近3か月間は上記の基準を満たしていること
3.「慢性便秘の分類」
一次性:
機能性便秘症:(大腸の形態的変化を伴わない便秘で、最も頻度が高い)
大腸通過正常型:大腸の糞便移送能は正常だが、食事摂取量減少や食物繊維不足により便秘となる
大腸通過遅延型:大腸の糞便移送能が低下し、近位大腸に多量の糞便が貯留する
機能性便排出障害型:直腸・肛門機能の障害により排便困難を生じる
便秘型過敏性腸症候群:腹痛を伴う機能性便秘
非狭窄性器質性便秘症:慢性偽性腸閉塞症、巨大結腸、直腸瘤、直腸重積など
二次性:
薬剤性便秘症:抗コリン薬、三環系抗うつ薬、オピオイド(モルヒネ)などが原因
症候性便秘症:糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病などが原因
狭窄性器質性便秘症:大腸がん、クローン病などによる腸管狭窄が原因
*薬剤性便秘症
便秘症を起こす可能性のある薬剤
| 薬剤種 | 薬品名 | 薬理作用 |
| 制吐薬 | グラニセトロン(カイトリル)、ラモセトロン(ナゼア)、パロノセトロン、オンダンセトロン | 5-HT3受容体拮抗薬による蠕動運動抑制作用 |
| 抗コリン薬 | アトロピン、スコポラミン その他抗コリン作用のある薬剤(抗うつ薬、抗パーキンソン薬、睡眠薬、抗アレルギー薬など) | 消化管運動の緊張や蠕動運動・腸液分泌の抑制 |
| 向精神薬 | 抗精神病薬、抗うつ薬など | 抗コリン作用 四環系より三環系の方が起こりやすい |
| 抗パーキンソン病薬 | ドパミン補充薬、ドパミン受容体作動薬など | 中枢神経系のドパミン活性の増加や、アセチルコリン活性の低下作用、抗コリン作用 |
| オピオイド | モルヒネ、オキシコドン、コディン、フェンタニル、トラマドールなど | 腸管のオピオイドμ2受容体の活性化に伴う消化酵素の分泌抑制、蠕動運動抑制、セロトニンの遊離促進作用 |
| 化学療法 | 植物アルカロイド(ビンクリスチン・ビンデシンなど) タキサン(パクリタキセルなど) アルキル化薬(シクロフォスファミドなど) | 末梢神経障害や自律神経障害 癌治療に伴うストレス、食事摂取量の減少、運動量の低下等も影響 |
| 循環器作動薬 | カルシウム拮抗薬(ベラパミル、アムロジピンなど) 抗不整脈薬(アミオダロンなど) | カルシウムの細胞内流入抑制による腸管平滑筋の弛緩 |
| 利尿剤 | 抗アルドステロン薬 ループ利尿薬 | 電解質異常に伴う腸管運動の低下、体内の水分排出促進 |
| 制酸剤 | アルミニウム含有薬 | 消化管運動抑制作用 |
| 鉄剤 | フマル酸鉄 | 収けん作用で腸管運動能の抑制 |
| 吸着薬 | ポリスチレンスルホン酸カルシウムなど | 排出遅延で薬剤が腸管内に蓄積し、二次的な蠕動運動阻害 |
| 制吐剤 | グラニセトロン、オンダンセトロンなど | 5-HT3拮抗作用 |
| 止痢剤 | ロペラミドなど | 抹消オピオイド受容体刺激作用 |
| NSAIDs | イブプロフェン | 腸管抑制作用 |
日常生活からの便秘対策
1. 食物繊維
食物繊維が不足していると考えられる場合には、1日当たり成人男子20g以上、成人女性18g以上の摂取を推奨(両てのひらにのる野菜を毎食)。ただし、過剰摂取は逆に便秘の原因になります。特に水溶性食物繊維が有効です。
腸内環境の改善
水溶性食物繊維は腸内細菌の栄養となり、善玉菌を増やして腸内環境を整えます。不溶性食物繊維は便の量を増やし、腸の動きを促進することで排便をサポートします。
糖質・脂質の吸収抑制
水溶性食物繊維がゲル状の膜をつくり、糖や脂質の吸収をゆるやかにします。その結果、食後の急激な血糖値上昇を抑えたり、コレステロールの吸収を妨げたりする効果があります。
便秘の予防・改善
水溶性食物繊維は、水分を保持して便を柔らかくする役割があります。
満腹感の維持
食物繊維は水溶性・不溶性いずれも消化に時間がかかるため、腹持ちがよく、食べ過ぎの防止に役立ちます。
*水溶性食物繊維は海藻、果物、豆類、いも類、野菜などに多く含まれ、腸内環境改善や血糖値の上昇抑制に役立ちます。
主な食品例
- 海藻類:昆布(アルギン酸、フコイダン)、わかめ、もずくなどは水溶性食物繊維が豊富で、腸内環境を整える効果があります。
- 果物:りんご(ペクチン)、みかん(薄皮やスジ)、キウイ、レモン、きんかんなどは皮ごと食べるとより多く摂取できます。
- 豆類:大豆、納豆、豆腐などは水溶性と不溶性の両方の食物繊維を含み、バランスよく摂取可能です。
- いも類:サツマイモ、かぼちゃなどは水溶性食物繊維を含み、調理しても量を損ないにくいです。
- 野菜:ごぼう(イヌリン)、にんじん、アシタバ、春菊などは水溶性食物繊維を含み、便秘改善に役立ちます。
- その他:らっきょう(フルクタン)、干しわらび、エシャレットなども水溶性食物繊維が豊富です。
2. プロバイオティクス
プロバイオティクスは、腸内環境を改善し、健康に役立つ生きた微生物であり、主にヨーグルトや発酵食品に含まれています。
プロバイオティクスの定義
プロバイオティクス(probiotics)とは、十分な量を摂取することで宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物のことを指します。主に乳酸菌やビフィズス菌などが含まれ、ヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品に多く含まれています。
プロバイオティクスの効果
プロバイオティクスは、以下のような健康効果が期待されています。
- 腸内環境の改善: 善玉菌を増やし、悪玉菌を減少させることで、腸内フローラのバランスを整えます。
- 消化機能の向上: 消化を助け、便秘や下痢の改善に寄与します。
- 免疫機能の強化: 腸内の免疫細胞を活性化し、感染症や炎症に対する抵抗力を高めます。
- メンタルヘルスへの影響: 一部の研究では、腸内環境がメンタルヘルスに影響を与える可能性が示唆されています
3. 水分摂取
朝起きてからゆっくりと常温の水をコップ一杯飲むことで、腸が刺激され、水分が体に浸透し、大腸の働きが良好になる。これは胃結腸反射という生理的な反応(副交感神経)を利用した方法です。
以下に水分摂取の目安を示します(高齢者0.5-1.0L/日、成人1.0-1.5L/日)
朝起床時 コップ1杯(約200mL)
食事時 各食事でコップ1杯
日中 こまめに少量ずつ(目のまえにいつでも飲めるように置いておく)
就寝前 コップ半分程度(夜間頻尿傾向の人は、口を潤す程度)
*水温にも注意が必要
冷水の摂取は胃腸を冷やし、機能を低下させる恐れがあるため、望ましくないとされています。常温または温かい白湯を選ぶことで、腸の働きを妨げずに水分補給ができます。特に冬場や冷え性の方は、常温以上の水分を摂取することをおすすめします。
4. 運動
便秘を予防するためには、適度な運動を日常生活に取り入れることが重要です。ウォーキングや腹筋運動、ストレッチを組み合わせることで、腸の働きを活発にし、便秘の改善が期待できます。運動を習慣化することで、腸内環境を整え、健康的な生活を送ることができるでしょう。
ウォーキング:
- 毎日20分から30分程度のウォーキングは、腸の動きを促進し、便秘解消に役立ちます。歩くことで腹部が刺激され、腸の蠕動運動が活発になります。
- 通勤時に一駅分歩く、散歩の習慣をつけるなど、日常生活に取り入れやすい方法です。
腹筋運動:
- 腹筋を鍛えることで、排便時に必要な腹圧を高めることができます。腹筋が弱いと、便を押し出す力が不足し、便秘が悪化する可能性があります。
- 自宅で簡単にできる腹筋運動を取り入れることをおすすめします。例えば、仰向けに寝て両膝を立て、上体を持ち上げる運動などが効果的です。
ストレッチ:
- 腰回りや骨盤周辺のストレッチは、腸への血流を改善し、腸の働きをサポートします。朝起きた時や就寝前に5分から10分程度のストレッチを行うことで、腸の動きを整える習慣をつけることができます。
- 深呼吸を伴うストレッチは、自律神経のバランスを整える効果もあります。
日常生活での活動:
- 階段を使う、立ち上がって体を動かすなど、日常生活の中で意識的に体を動かすことも重要です。これにより、腸の動きが活発になり、便秘の予防につながります。
5. マッサージ
1日15分のマッサージ(へそを中心に「の」の字を書くように)が有効です。温罨法と言って熱傷にきをつけて湯たんぽなどで温めるのも有効で、入浴中などにも定期的に施行します。
6. 排便姿勢
便秘の原因の一つは、排便時の姿勢にあります。現代の洋式トイレでは、座った姿勢が一般的ですが、この姿勢では肛門周辺の筋肉が締まりやすく、便が通過しにくくなることがあります。一方、しゃがむ姿勢や前かがみの姿勢をとることで、直腸と肛門の角度が広がり、便が出やすくなります。
理想的な排便姿勢
前かがみの姿勢: トイレに座った際に、上半身を前に倒し、肘を膝の上に置く姿勢が効果的です。この姿勢により、直腸と肛門の角度が緩やかになり、排便がスムーズになります。 ロダンの考える人(かかとをあげ、両肘は太ももの上に置き、前傾姿勢になる)がいいとされます。
足を高くする: 足元にスツールや踏み台を置き、膝を腰より高くすることで、しゃがむ姿勢に近づけることができます。これにより、骨盤底筋が緩み、排便がしやすくなります。
和式トイレの姿勢: 可能であれば、和式トイレのようにしゃがむ姿勢をとることが理想的です。しゃがむことで、直腸と肛門の角度が広がり、便が出やすくなります。
7. 生活習慣の見直し
便秘を解消するためには、排便姿勢だけでなく、毎日、排便がなくても定時に便器に座り、排便を試みることも有効です。さらに、排便なくてもシャワートイレで肛門に刺激を与えることも有効です。食生活や生活習慣も見直すことが重要です。水分や食物繊維を十分に摂取し、腸の動きを活発にすることが大切です。また、便秘が続く場合は、医療機関に相談することをお勧めします。
便秘薬(当院で使用している薬)
1. 浸透圧性下剤
塩類下剤…酸化マグネシウム、マグミット、硫酸マグネシウム
腸管から吸収されにくい水溶性無機塩類で、浸透圧作用によって腸内容の水分を維持し、腸の蠕動も促進するWの効果。効果は早く1-2時間で有効とされ、習慣性が少なく、長期使用も可能(腎機能障害には高マグネシウム血症に注意)。
糖類下剤…ラクツロース、ラグノスNF、モニラック(小児のみ)、D-ソルビトール
消化されない非吸収性の糖類の作用で、浸透圧により水分を保持するだけでなく、腸内細菌によって変化し、腸を活性化します。
2. 刺激性下剤
アントラキノン系…プルゼニド、アローゼン、センノシド
大腸粘膜を刺激して蠕動を起こさせ、排便を促す。服用後6-15時間かかって排便させるため、就寝前に服用する。連用により刺激性が低下する可能性があり、依存性もあり、短期使用が勧められる。
ジフェニール系…ラキソベロン、ピコスルファートナトリウム
液体で量が調節しやすく、飲みやすい特徴がある。錠剤もある。
3. 直腸刺激剤
ビサコジル坐薬…テレミンソフト(小児のみ)
直腸粘膜を刺激して、排便反射を誘発する。
炭酸水素ナトリウム配合剤…レシカルボン坐薬
肛門から挿入後、体温で温められて、炭酸ガスを発生し、直腸を刺激する。
グリセリン浣腸
グリセリン液で直腸壁からの水分吸収に伴う刺激にて蠕動を促進し、また、便を軟化・膨潤させて糞便を排泄させます。
3. 漢方薬
大建中湯:お腹が冷えて痛い、お腹が張って苦しい、お腹を触ると冷たい、食欲はあまりない、手足が冷えるという5つの自覚症状を持っている方に最適です。比較的軽度の便秘で、ときどき下痢をともなうような場合にも整腸作用が期待できます。
防風通聖散:体力充実して、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちな方の、高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、蓄膿症(副鼻腔炎)、湿疹・皮膚炎、ふきでもの(にきび)、肥満症に有効です。ダイエット効果もある程度認められていますので肥満で便秘も解消したい、中性脂肪やコレステロール値が気になる方に使います。
麻子仁丸:高齢者や病後など体力中等度あるいはやや低下して、排便回数が減り、便が硬く、コロコロした乾燥した便が出る方に処方します。高齢の方ややせ型の人で、体内の水分が不足気味の人や、通常の下剤でお腹が痛くなりやすい人に適しています。気のうっ滞も改善させつつ、腸全体を潤し、腸を刺激する作用もあります。
大黄甘草湯:体力に関わらず使用できる、便秘、便秘に伴う頭重、腹部膨満・腸内異常醗酵・痔などの症状の緩和が期待できます。大腸を刺激しつつ、排便時の痛みを和らげるに最適です。
桃核承気湯:便秘だけでなく、月経トラブルも抱える女性に向いています。便秘だけでなく、のぼせや足腰の冷え、生理痛や生理の前にイライラなど出やすい人にも向いています。やや強い便秘に有効です。
など
4. 合剤
セチロ(ダイオウ、センナ、オウレン、マグネシウム)
新しい便秘薬
アミティーザ(ルビプロストン)1日2回朝夕食後内服
小腸上皮頂端膜に存在するClC-2クロライドチャネルを選択的に活性化することで、腸管内への水分分泌を促進し,糞便の腸管内輸送を高めて排便を促進するという全く新しい作用の便秘薬です。
リンゼス(リナクロチド)1日1回朝食前内服
腸管の上皮細胞に存在するGC-C受容体に作用し、腸管内への水分分泌を促進し、小腸運動を活性化して、便通を改善します。また、神経線維に作用して、腹痛や腹部不快を改善します。
グーフィス(エロビキシバット)1日1回夕食前内服
大腸内での胆汁酸の吸収を抑制することで、大腸内の水分分泌を増加し、胆汁酸の刺激で大腸運動を促進します。効果発現まで5時間以上かかります。
モビコール(ポリエチレングリコール製剤)1日1-3回水に溶かして内服
ポリエチレングリコールが水分を保持することで、便通を改善します。即効性はなく、1週間くらいで効果が安定します。薬剤成分による副作用はなく、小児に使用しやすい安全な便秘薬です。
スインプロイク(ナルデメジントシル)1日1回朝食後 モルヒネなどを服用している患者のみ
消化管のオピオイド(モルヒネなど)受容体に結合し、オピオイドの副作用である便秘をブロックします。効果発現まで5時間以上かかります。
*新しい便秘薬は、従来の便秘薬と全く作用機序が異なるので、併用も可能です。当院では、小児の便秘から高齢者、がん患者の便秘まで対応しています。
