湿潤療法

「因幡(いなば)のしろうさぎ」のむかしばなしには、おおくにぬしのみこと(大国主命)が、毛をむしられたうさぎを、血をとめる効果のある蒲の穂(がまのほ)と河口の海水(うすいしおみず)をもちいた「湿潤療法(うるおいりょうほう)」でなおしたとされています。

湿潤療法(うるおいりょうほう)とは

先ず、キズを水道水でしっかりあらいながします キズの消毒は必要ありません!

  • あさいキズなら水道水であらいながすだけでだいじょうぶです。
  • 消毒薬をつけすぎると、キズをなおすための体のはたらきをかえってじゃまして、はえてきた皮膚細胞もいためてしまいます。
  • 血をしっかり止めます。

キズをかわかさない! キズを防水絆創膏(ばんそうこう)や防水フィルムでおおう

  • キズはうるおい環境が大スキです。
  • ジクジクした滲出液(しんしゅつえき)は、キズをなおすには必要なものです。

ひとにやさしい! キズのなおりがはやい、いたみがすくない。

  • 患者にやさしい、特にお子様にやさしい。
  • キズのなおりもはやくて、きれい。

湿潤療法のまとめ

  • まず、しっかりキズを水道水であらう。
  • 次に、しっかり血をとめます。
  • 砂や土などの異物(いぶつ)をとります。
  • 湿潤療法(うるおいりょうほう)専用の絆創膏(ばんそうこう)でおおう。
  • 1日1回以上、絆創膏(ばんそうこう)をはりかえて、そのときにしっかりキズをあらいます。

湿潤療法にむかないキズ

  • ふかい(縫う必要があるような)キズ
  • 血がとまらないキズ
  • 動物にかまれた、きたないキズ
  • 砂や土などの異物(いぶつ)がとれないキズ
  • うんでいる、うみかけているキズ

当院では、この湿潤療法をキズだけでなく、やけどや褥瘡(とこずれ)にも積極的に取り入れています。気軽にご相談ください。
また、湿潤療法のご家庭での処置についてもご相談いただけます。

当院でやけどの受診をされる場合の応急処置について

誤ってやけどをしてしまったときは、まずは「冷却」です。
水道水による冷却がすすめられていますが、直接やけどの部位に水道水やシャワーを当てるのは皮膚をいためてしまう可能性があります。
そこで、手足であれば、水道水の流水を注ぐ洗面器やバケツにやけどの部位をひたしてください。
できれば15~30分以上水道水を流し続けて、洗面器またはバケツに注ぎ続けてください。
「冷却」はやけどの進行をくい止めるだけでなく、痛みも軽くなります。「早い専門医受診よりも、まずは十分な冷却」と覚えておいてください。

ただし、赤ちゃんなどの冷やしすぎは、低体温などの危険性があるので、冷却を開始した段階で、病院にご相談することをおすすめします。

また、テレビのCMなどでも言われているように、熱湯のかかった衣服を無理に脱がせたり、脱いだりすると、皮膚をいためてしまう可能性があるので、衣服の上から冷却するようにしてください。
見た目よりも以外に広い範囲がやけどしていたり、衣服などにかくれた部位にもひろがっている可能性があることに注意しましょう。

病院にいくまでの間は、なるべくやけどの部位が乾燥しないように、濡れたタオルなどでおおって、可能であれば冷やしながら受診するようにしましょう。乾燥させると、より痛みが強くなる可能性があります。

最後に、けっして消毒やよくわからない軟膏などの治療をせずに、冷却のみで受診するようにしてください。
病院へは、冷却後なるべくすみやかに受診をおすすめしますが、やむをえない事情などで受診が遅れる場合には、白色ワセリンとガーゼでやけどを保護しておいてください。

当院では、痛みのすくない「湿潤療法」でやけどの治療を行っています。

湿潤療法ご希望の患者さんへ

当院では、全ての創傷・熱傷について「湿潤療法」を基本とした治療を施行しています。その特徴は、以下の通りです。

  1. 消毒はいかなる創傷でも一切行いません。水道水による洗浄をもっぱら使用し、可能であれば、物理的な洗浄効果を期待して、大量かつ適度な圧力が必要と考え、痛みに考慮しつつ、シャワーなどを有効に使用しています。ただし、創部の痛みが非常に強い場合には、適宜生理食塩水なども使用しています。
  2. 止血と異物除去は徹底して行うため、必要があれば局所麻酔(麻酔を創部に直接注射したり、麻酔ゼリーやテープを駆使)を施行して処置もさせていただき、その後に湿潤療法を行います。また、壊死組織(血流がなく、感染した皮膚など)や、不良肉芽といって皮膚が生えてくることの邪魔になるような組織も積極的に手術で除去しています。ただし、お年寄りやお子様の場合や、傷の治療過程で自己融解(自然になくなっていく)が見込める場合は、経過を見ながら、最小限の処置にとどめています。
  3. 基本的には、専用の被覆材を使い分けており、ラップ療法は行っておりません。
  4. ガーゼ交換は、創の状態が落ち着くまで、もしくは患者さんが処置に慣れるまで、原則毎日受診をお願いしています。不可能な場合は、お近くの病院を紹介しています。
  5. 感染した創には、内服の抗菌薬も適宜使用します。
  6. 浸出液や膿の吸収のために、創にくっつかないメロリンガーゼ®などのガーゼも使用しており、必要があれば薬局で購入していただきます。
  7. 植皮などの手術が必要と判断した場合は、形成外科に紹介しています。
  8. 創治癒後のアフターケアとして、色素沈着(しみ)や瘢痕形成(ケロイド)などの予防や治療)も積極的に行っています。